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自作小説「水の車輪」の原稿置き場です。 ※未熟ではありますが著作権を放棄しておりません。著作権に関わる行為は固くお断り致します。どうぞよろしくお願い致します。
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二、

キオは舌打ちをしながら黙々と人込みを潜り抜ける。
街は活気にあふれていた。道端でテントを張って行商をする者、店の展示窓に張り付いて、お菓子やおもちゃを物欲しそうに見つめる子供たち。美味しそうなパンの匂い。色とりどりに盛られた野菜の市場。
がやがやとうるさい人のおしゃべりは、しかし楽しげに空気を彩る。
路地を回って足場の狭い階段を駆け降りる。少しだけ埃っぽい。
下町までやってくると、空気は一気に煙草臭くなる。珈琲豆の香りも漂う。キオは正直この匂いは好きでなかったが、レミオはなぜかここが落ち着くといつも言っていた。レミオの父親が煙管をふかす癖があるからかもしれない。
キオはそのまま、裏通りにこぢんまりとたたずむ焦げ茶色の看板の店先に移動した。相変わらずぼろぼろの店だ。しかし店主には店を改築する金はない。キオは嘆息した。扉を開くと、ベルの音が耳に心地よく響く。この音だけは嫌いじゃないと認めてやってもいい。同時に、甘く濃い香りも鼻腔をくすぐった。これはチョコラトルの匂いだ。
キオが入ってきたことに気付くと、レミオが能天気な笑顔で手を大きく振った。
「キオ!!あなたも飲んだら??冷たいチョコラトルも美味しいわよ!」
キオはこめかみをひくつかせた。どうもこの女を見ると鳥肌が立って苛々する。
「キオは甘いもの苦手だもの」
涼しい声でエンデが言う。エンデは優雅に紫色の茶を飲んでいた。
キオは嘆息する。
「何飲んでるの、エンデ」
「桑茶じゃよ」
ティーカップを布巾で拭きながら、店主のローゼンが答える。
キオは肩をすくめた。
「え、それ旨いの」
「わたしは好き」
エンデはこともなげに言った。そして、小さく嘆息する。
「そろそろ構ってあげたら?泣きそうよ」
キオはエンデの顎の先を見てげんなりとした。レミオがふくれっ面でキオを睨んでいる。
(くそうっとうしいこのアマ・・・!!)
キオは小さく舌打ちした。顔を思いっきりしかめる。
「あのさあ、お前、俺になんか言うこたないわけ?」
レミオはきょとん、とした。青緑の大きな瞳がまんまるに見開かれる。
「へ?」
その間抜けな声に、頭の血管がぶち切れる音がした。キオは顔をゆがめつつも極めて笑顔を装う。
「だーかーらーぁ、卯の月櫨の日赤の刻。忘れたとは言わせねえ」
「ええと・・・うーん・・・何があった日?日付言われてもわからないわ。あっ、もしかして、ラゼルタさんとこの雌山羊に赤ちゃん生まれた時?」
「確かに惜しいがお前はそういうことしか印象に残ってねえわけ!!!」
キオはついに怒鳴った。
「へ?で、でも、他に何か・・・あ、わかった、サコルさんとこで新作パンを試食させてもらえたんだったわね?」
「日にちが遠くなった!!ちげえよ!!」
「え?ええ??」
エンデが嘆息する。
「王様がお通りになった日よ」
「え?あ、あっ、そっか!!そんなこともあったわね!!」
「レミオ。ここにいるのはわたし達だけだからいいけど、そんなこと大声で言ったら処罰されかねないわよ」
「まあまあ。子供にはあまり興味の惹かれないことじゃろうて」
「・・・ローゼンさんはレミオに甘すぎるわ」
「こんっのクソアマぁああああ!!!!」
キオは切れた。レミオの肩をぐらぐらと揺さぶる。
「ま、ちょ、ま、待って、キ―痛っ!!舌噛んだぁ・・・っ」
「るせええ!!そのまま舌噛み切ってくたばれや!!!」
「な、なにそんなに怒ってるのぉ!?」
エンデが眉間に手の甲を当てる。
「レミオ・・・あなたのしでかしたこともう忘れたわけ・・・」
「え?ええ??」
キオは肩で息をしながらぐいっ、とエンデの飲んでいた桑茶の残りを飲み干した。息を整える。
「はぁ・・・はぁ・・・とにかく。一回外出るぞ。くそっ。ごちそうさん!!」
「ごちそうさまでした」
「え?ちょ、ちょっと、髪引っ張らないで!!痛い痛いご、ごちそうさまでしたぁああ」
三人は慌ただしく外へ消える。
「若者はいいねえ、賑やかなことだよ」
残されたローゼン翁はにこにこと笑った。カウンターに乗っていたぶち猫がニー、とあくびをする。

柵の隙間から鉄道と海が見渡せる、時計台のある丘までレミオを引きずり、ようやくキオはレミオを解放した。レミオは涙目で薄紅の髪をくしゃりと握りしめる。
「いいか」
キオはどす黒い笑みを浮かべた。
「言ったよなあ、俺。何度も何度も再三言ってきたよなあ、俺!?な ん で お前はいつもいつもそう約束忘れやがる!!後始末するのはいつも俺だぞ!!!!」
「たまにわたしも、だけど」
エンデが小さくぼやく。
「え、えっと・・・」
「人前で【力】使うなって何度言えばわかるわけ?しかもなにさあれ!!何のつもりであんなことした!!ごまかすのにも限度があるんだけど!!」
「え?ええと・・・あ!」
ようやくレミオは事態を理解したようだった。申し訳なさそうに俯く。
「ご、ごめんなさい・・・べ、別に使うつもりはなかったのよ。ただ・・・わからないの。暴走してしまって」
「暴走じゃ済まないっつうの・・・!」
キオは腕を組み口の端をひくつかせながら苛々と片足で地面を叩く。
「だ、だって・・・!!」
「だってじゃない!!」
「まあ・・・レミオの言い分も聞いてあげてよ」
エンデが肩をすくめた。
「あ?言うならさっさと言いやがれ!!」
「そ、その・・・だって、キオがみんなから責められてるの見たら、胸が痛くて、そしたら体が熱くなって、いつの間にか、風車が動いちゃってたんだもの・・・!」
「はぁ?」
キオは呆れたように呟いた。
「なんだそれ。ほんっとに意味不明だな。どのあたり責められてたんだよ。普通の会話してただけじゃん」
「い、いじめられてたよ!?みんな、寄ってたかって・・・まだキオは子供なのに、すごく厳しいこと言ってた・・・怖かったの、なのにキオ、平気そうな顔してるんだもの!」
「俺にとっては普通だよ。むしろお前の感覚がわかんない。平気そうも何も、実際平気なんだよ」
キオは頭を掻いた。
「でも、キオ、たしかにヘラクレイトスの人たちはわたしやレミオのお家の人たちよりもずっと、あなたを子供扱いしなさすぎると思うわ」
「子供扱いなんざされたくないね。気色悪い」
「あなたはそれで平気かもしれないけど、わたしも確かに、見ててちょっと怖かったわ。大人扱いどころの話じゃないもの。まるであなたがヘラクレイトス家の全てを背負っているみたい」
「実際似たようななものだけど?」
キオはきょとん、として言った。
「むしろ早く年齢ともに大人になりたいね。そうしたら、全ての人間を黙らせてやる。うっとうしい小蝿なんかさっさと掃ってしまいたいし」
レミオがぎゅっ、と服を掴む。
「キオったら・・・!!わたしたちまだ14歳よ!」
「もう14歳だよ!!馬鹿だろお前?いいか、数年前まではみんな俺達を大目に見てくれてたかもしんない。だけど、もうあのころとは違う。何度も言ったろ?元々俺達は、この印を持って生まれてきてしまった時点で、【家】の道具なんだ」
キオは左の目じりにある、二つ並んだ黒子を指差した。
「しかもそいつらが全て、尋常でない力を持ってるだなんて知られてみろよ、俺達は絶対に利用される。確かに俺は大人びてるかもしれない、だけど、大人のこずるい知恵にはどうしたって敵わないよ。だから身を守りたいんだ。特にお前!お前みたいなのろまは絶対に家の思うつぼだ」
「うちの人たちはそんなことないもん」
「お前さ、自分で言ったこと忘れたか?俺は忘れてない。ガキの頃だったけど、俺に泣きついたじゃないか、『わたしは不出来な子なの。だからみんなわたしを見限ってるの』って」
レミオは唇を噛んだ。
「あれで俺が『本物の馬鹿のふりをしろ』って言ったから、まあ、お前がこんな抜けた性格になっちゃったんだろうけどさ・・・そう考えるとお前のすっとぼけも俺のせいでもあるんだけど・・・」
キオは力が抜けたように嘆息した。そうしてレミオの頭にぽん、と手を載せた。
「まあ、一応ごまかしたけどさ。俺は風の力使えないし。やつらはみんな、あれは俺がしたことだと勘違いしてたから、一応切り抜けたけどさ。でも、俺がいないところでお前がもし力暴発させたらさすがの俺にもごまかしてやることできない。だから、頼むから気をつけてくれよ・・・俺のことなんかどうでもいいよ・・・何が責められてたから、だよ、ったく」
キオは深々と息を吐く。レミオは俯いたままだった。
「その点、エンデはへまやらかしたこと一度もないよな。ほんと」
エンデはほほ笑んだ。
「私が自分の力に気付いたのは、あなた達二人から話を聞いた後だったもの。どうとでも出来たわ。レミオがあちこちで騒動起こしてくれるから、なるほど、こういう風にしちゃいけないのか、って先に勉強になってるし」
「ひ、ひどぉい!!そうなる前に止めてよ!?」
レミオが叫ぶと、エンデはくすくすと笑った。キオは小さく嘆息する。
「でもまあ・・・気をつけろよ?エンデの場合、下手すると人命巻き込みかねないし」
エンデはにっこりと笑った。
「大丈夫よ。それに、お互い様でしょ?」
キオは肩をすくめた。


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