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自作小説「水の車輪」の原稿置き場です。 ※未熟ではありますが著作権を放棄しておりません。著作権に関わる行為は固くお断り致します。どうぞよろしくお願い致します。
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鏡に手を当てる。
映る萌黄色の瞳は、微動だにしない。
エンデは左の目元を指でそっと撫でた。
(これさえ無かったら)
そう、思わずにはいられない。けれど、言っても詮無きことだ。
ただの二つの黒子は、まるで警告の証のようだった。
「こんなもの、救いなんかじゃないわ」
エンデは冷えた声で、鏡の向こうの人形に呟く。


エンデは三人の中では一番最後に生まれた。
【予言の子】、それが現実になったのは、キオ=ヘラクレイトスが生まれた時だ。
キオには、生まれながらにして、左の目尻に二つ並ぶ黒子があった。
新興貴族ヘラクレイトス家は、予言と照らし合わせ、彼こそがその予言だとお祭り騒ぎだったという。
その後、数刻も満たないうち、エリュイトスという名の古参の貴族の家で、全く同じ黒子を有した女児が生まれた。
エリュイトス家は、王宮に古くから仕える家系で、何人もの側室を出していることでも有名な身分の高い家柄だった。
ヘラクレイトス家とエリュイトス家は反りが合わない。
しかし、二人が予言の子であれば、手を組むことは悪い話ではなかった。
その日のうちに、内密に当主は会合を開いたという。
二人は許嫁となり、名も、かのルフェラとサフィアの故国であると伝わるサビラの地の言葉で、【兄】と【弟】を表す言葉を与えられた。
エンデが生まれたのは、翌日の明け方だった。
エンデが生まれたその日、母屋で小火が起こった。
母は産後まもなく動きが取れず、その煙で喉を潰した。
それまでは、とても美しい声の持ち主だったという。エンデには年の離れた兄が二人いるが、幼い頃にはたくさんの童謡を歌って聞かせてくれていたと聞いた。兄達はそのせいか、たくさんの歌を、物語を知っていた。けれど、エンデはほとんど知らない。
母の声は、しわがれた声しか知らなかった。幼い頃、どうして自分の母の声はおばあさんみたいなのか、他所の母はあんなに綺麗な声をしているのに、とぐずったことがある。
ぞっとする。
けれど、母は決して、怒らなかった。
大きくなって、そのことを知って、思い出して、恐ろしくなった。
赤子の頃、エンデが泣く度、あちこちで小火が起こったという。
それまで古きを愛し、蝋燭を用いた灯篭を屋敷に拵えていた父が、全て発明されたばかりの電球に切り替えたのも、その頃だった。当時電球は高価で、元々没落貴族であったマジュ家は、財産をほとんど使ってしまったらしい。
【エンデが泣くと、火事になる】
【エンデが怒ると、火事になる】
【エンデに恨まれたら最後、僕らみんな丸焼きだ】
兄達も、少年時代の遊びたい盛りに、貧乏のために苦労してきたのだと思う。
そんな歌を聞かされて、育った。両親の知らないところで。
兄達は優しかった。声のほとんど出なくなった母に代って、エンデに本を読み聞かせしてくれたし、めずらしい絵画や玩具もたくさん見せてくれた。与えてくれた。
けれど同時に心に重くたまっていく不満を、歌で爆発させることが多かった。
それを歌っていた兄達の表情が、今もまぶたの裏に焼きついて離れない。
可愛がってくれていたのは、それでもの肉親の愛情ゆえなのか、それともエンデが恐ろしかったからなのか。
そんなこと、怖くて聞けるはずもない。

キオとレミオの誕生は、国中に知らせられた。国民の喜びは相当なものだった。
彼らの誕生を祝って、盛大な祭りが開かれたほどだ。
数日して、エンデの父は、自分の娘がその【予言の子であるかもしれない】ということを、母にも告げたという。
二人は、エンデの存在を隠すことにした。ヘラクレイトス家とエリュイトス家ほど、敵に回すと恐ろしい家はなかった。
【勢力争いに巻き込みたくなかった】と、父は言う。
『大きくなれば、その黒子も偶然だと言い張れるだろう。お前はお前なのだから、予言の子でなくともよい。誰かを愛し愛され、年老いる、そんな平凡な幸せが、女の子には一番似合っている』
怖かった。
大きくなればなるほど、自分の周りの環境を理解した。自分のせいで奪われたかもしれない幸せを、知った。
それなのに愛情を向けられることが、怖かった。
そんな資格はないと思った。
それでいて、敵意を時折向けてくる兄達のまなざしも、怖いと思った。
結局、全て信じられなかったのだ。

エンデの正体は、あっけなく露見した。
詰めの甘い父のせいだったかもしれない。
貴族の集まる華やかな茶会を、娘にも見せてあげたいという親心だった。
あの頃、どれだけレミオを恨んだか知れない。
レミオのたった一言で、全てが台無しになった。
あの指差しを、今でも忘れられない。
『見て!!あの子、わたしと同じ黒子があるわ!!』

あの時真っ先にエンデの前に現れたのが、キオだった。
キオはエンデを見ると、エンデにとっては【恐ろしい】顔をした。
まるで憎まれているような。
けれどあれは、自分の、自分達の運命を呪っての子供じみた怒りだったのだと、今ならわかる。
彼は一瞬で表情を柔らかく【人前用】に戻すと、エンデをかっさらった。
レミオというおまけつきで。

『端的に聞く。お前、人と違う何かがあるか』
最初、何を聞かれているのか分からなかった。キオは小声でエンデにたたみかける。
『お前のその黒子がただの黒子か、それとも僕達と同じ類のものか、それを知りたい。返答によっては僕達の、いや、僕の対応が変わってくるから。悪いようにはしない。絶対に、君に悪いようにはしない!』
その目は酷く真剣だった。エンデは、掴まれた手首が痛いとようやく感じた。少しだけ体が震える。
『ど、どういうこと?違うって・・・何が』
目に涙が滲んだ。【歌】を聞かされるようになってから、一度も人前で泣いたことなどなかった。エンデは唇をかみしめて堪えた。キオは、ほう、と息をつくと、エンデの手を解放した。諦めきったような表情で、薄く笑った。
『十分だ』
その言葉に胸が締め付けられる。
『ごめんなさい・・・!!ごめんなさい!!』
思わず頭を抱えしゃがみこんだ。体がかたかたと震えていた。けれど、レミオがその背中をそっとさすってくれた。
『もう!!キオが怖い顔してるから泣いちゃったじゃないの!!』
『あぁ!?もとはと言えば誰のせいだよ!!お前がすっとぼけたこと大声で言うからだろが・・・!!』
キオはくわっとして怒鳴った後、もう一度深呼吸した。
『これを見て』
キオは花壇に咲いていた一輪の蕾を摘み取り、エンデの目の前にかざした。
キオの手元が鈍く光った。瞬間、蕾は生き生きと花開く。やがてそれはまたたく間に枯れていった。もう一度キオの手が光る。一瞬のうちに葉や茎は燃え灰になって、キオの手には綿毛だけが残った。
エンデは目を丸くした。まるで魔法を見ているようだ。
『たぶんお前にも、こういうことができるんだと思う。予言の子なら、ね。僕は光を操ることができる。こうして、植物の成長を早めたり、灰にしたり、暗がりで明かりをともすこともできる。レミオは風を操ることができる。風の力を借りてどんな高い所にだって登れる』
『空は飛べないけどね』
レミオが舌を出す。
『それはお前の体重が重いからじゃないの』
『ひ、ひどい!!そ、そんなことないわよ!!』
レミオはむっとして、ぱしぱし、とキオの背中を叩いた。
『あ、あとね、私水浴びた後でもすぐに髪を乾かすことができるの!おかげで寝冷えで風邪ひいたことは全くないのよ、結構便利でしょ』
レミオはにこにこと笑った。
エンデはまだ震えていた。頭がついていかなかった。キオはぽん、とエンデの頭に手を載せた。
『言いたくないなら今は言わなくてもいい。だけど、僕達君の敵じゃないから。むしろ敵は大人だから』
キオの目に再び鋭い怒りが宿った。それはエンデに向けてのものではないと、エンデにも理解できた。
『何かあったら、港にいる金髪頭ののっぽに伝えて。ザゼリ、っていうんだけど。あいつは信用できるから』
キオはそのまま姿を茂みの中へと消した。
レミオはそのままエンデの傍にいた。にっこりと無邪気に笑う。
『ね、おままごとしよっか!!』
そう言って、花壇の草花を摘んで、編み始めた。
エンデは複雑な気持ちになる。


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