自作小説「水の車輪」の原稿置き場です。 ※未熟ではありますが著作権を放棄しておりません。著作権に関わる行為は固くお断り致します。どうぞよろしくお願い致します。
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それが自分の【力】だと知るまでに、時間がかかった。
確かめたくて、けれど、怖かった。
母に港に行きたいと言ったら、目を丸くした後、『じゃあ林檎も買ってきてくれる?』と言われた。
母はほほ笑んでいた。何も聞かないでいてくれた。
泣きたくなった。
エンデは庶民の服に着替え、フードで顔を隠して港へ向かった。
かもめがたくさん飛んでいる。
船着き場は、たくさんの男達で賑わっていた。
恰幅のいい男が樽を抱えて、通り過ぎる。
荷台を押して、木箱を運んでいた男が、エンデを見て首をかしげた。
『よう、嬢ちゃん、なんか用か?』
エンデは答えられなかった。普段話すことに慣れていないから、こういう時にとっさに声が出ない。
男は髭の生えた顎を掻く。
『ふーん・・・こういうのはあいつ専門かねえ。嬢ちゃん、ちょいと待ってな。ここに子供がやたら好きな馬鹿連れてくるからよ』
男が通り過ぎて、どれくらい経っただろう。
その場にしゃがみこみ震えながら待っていたエンデの頭上から、掠れたような少年の声が聞こえた。
『なんだぁ?待ってるのって、あんた?』
エンデがはっ、として顔を上げると、そばかすだらけの顔が目に入る。綺麗な青い大きな目に、エンデの顔が映っている。
少年はまじまじとエンデを見詰めた後、ふにゃり、と笑った。その笑顔になぜだかとても安堵して、胸が苦しくなった。少年はくしゃくしゃとエンデの頭を撫でまわす。
『おれ、ザゼリ。あんたは?』
エンデは泣いた。とてつもなく、気が抜けたのだ。ザゼリは驚いたようだったが、にこにことほほ笑みながら、エンデが泣き止むまで待っていてくれた。
『ここなら、万が一のことがあっても、大丈夫だと思うの』
『万が一?』
ザゼリは首をかしげる。エンデは首を振った。
『あのね、ごみでいいから、なくなっても困らないもの、くれない?』
『ごみ!?ごみねえ・・・あ、そうだ』
ザゼリはポケットからくしゃくしゃになった紙切れを取りだす。
『これ、どうせ捨てようと思ってたもんだし、いいよ』
『・・・手紙?』
『まあ・・・あっ!!でも読むなよ!!何があっても読むなよ!?ぜってえ読むなよ!!?』
エンデは呆気にとられる。ザゼリは耳まで真っ赤になって、頭を掻いた。
『いや・・・その、さ、それ、バルクローレって港町でお花売ってるお嬢さんがさ、すっげえ可愛くて、おしとやかで、もうほんとに、可愛いのさ』
『は、はあ』
『それで・・・その・・・ああああもういいや!!と、とにかく!!それ失敗作だから!!』
エンデは手元のくしゃくしゃになった紙を見つめる。
『でもこれ・・・匂い付きの紙だもの。結構上等だわ。大事な気持ちが書いてあるんでしょう?』
ザゼリは顔を真っ赤にした。
『い、いいの!!やっぱ男はさ、こんなちまちま手紙書くよか当たって砕けるべきだと思うわけ!!だからそれはどうせ使わないの。というか、俺が持ってるとぜってえ捨てらんないからさ、捨てといてよ』
エンデはくすりと笑った。
『砕けないでね』
ザゼリは目を丸くすると、照れたように頬を掻く。
『ちょっと、後ろ向いていて』
『あ?』
『ちょっとだけ、お願い』
『は?ま、まあいいけど』
ザゼリは大人しく背を向けた。エンデはそっと、しゃがみこむ。眼下には、海の面が揺らめいている。エンデは深呼吸した。目を閉じて、キオのやっていたように、手をそっと、紙の端に当てる。意識を集中させる。
手のひらが、ちりちりと痛んだ。煙の匂いがしたような気がして、目を開ける。線香のように角の所が燃えて、墨になっていた。エンデはその部分を海の水に浸す。
立ちあがって、小さく嘆息した。
『もういいわ、ザゼリさん』
『お?おう』
ザゼリはきょとん、として振り返る。歳も背もエンデよりも大きい彼は、それでいて自分よりもずっと無邪気で可愛い子供のように思えた。
エンデは微笑した。いつから、こんなに、【当たり障りのない】笑顔ができるようになったのだろう。自然に笑えた。口の端の筋肉がひきつることもない。
『もしここに・・・キオ、って子とか、レミオ、って子が来たら・・・伝えておいて。待ってる、って。探しに来て、って。いつまでも、待ってる、って』
ザゼリはお日様のように笑った。
『おー。やっぱあいつらのダチか!伝えとく。あんたもまた遊びに来な、エンデ』
『少しは進展してるといいわね』
エンデが柔らかくほほ笑むと、ザゼリは一瞬きょとん、として、すぐに顔を音が出そうなほどに赤らめた。
『お、お、おおう・・・!!ま、まかしとけ!!』
それが自分の【力】だと知るまでに、時間がかかった。
確かめたくて、けれど、怖かった。
母に港に行きたいと言ったら、目を丸くした後、『じゃあ林檎も買ってきてくれる?』と言われた。
母はほほ笑んでいた。何も聞かないでいてくれた。
泣きたくなった。
エンデは庶民の服に着替え、フードで顔を隠して港へ向かった。
かもめがたくさん飛んでいる。
船着き場は、たくさんの男達で賑わっていた。
恰幅のいい男が樽を抱えて、通り過ぎる。
荷台を押して、木箱を運んでいた男が、エンデを見て首をかしげた。
『よう、嬢ちゃん、なんか用か?』
エンデは答えられなかった。普段話すことに慣れていないから、こういう時にとっさに声が出ない。
男は髭の生えた顎を掻く。
『ふーん・・・こういうのはあいつ専門かねえ。嬢ちゃん、ちょいと待ってな。ここに子供がやたら好きな馬鹿連れてくるからよ』
男が通り過ぎて、どれくらい経っただろう。
その場にしゃがみこみ震えながら待っていたエンデの頭上から、掠れたような少年の声が聞こえた。
『なんだぁ?待ってるのって、あんた?』
エンデがはっ、として顔を上げると、そばかすだらけの顔が目に入る。綺麗な青い大きな目に、エンデの顔が映っている。
少年はまじまじとエンデを見詰めた後、ふにゃり、と笑った。その笑顔になぜだかとても安堵して、胸が苦しくなった。少年はくしゃくしゃとエンデの頭を撫でまわす。
『おれ、ザゼリ。あんたは?』
エンデは泣いた。とてつもなく、気が抜けたのだ。ザゼリは驚いたようだったが、にこにことほほ笑みながら、エンデが泣き止むまで待っていてくれた。
『ここなら、万が一のことがあっても、大丈夫だと思うの』
『万が一?』
ザゼリは首をかしげる。エンデは首を振った。
『あのね、ごみでいいから、なくなっても困らないもの、くれない?』
『ごみ!?ごみねえ・・・あ、そうだ』
ザゼリはポケットからくしゃくしゃになった紙切れを取りだす。
『これ、どうせ捨てようと思ってたもんだし、いいよ』
『・・・手紙?』
『まあ・・・あっ!!でも読むなよ!!何があっても読むなよ!?ぜってえ読むなよ!!?』
エンデは呆気にとられる。ザゼリは耳まで真っ赤になって、頭を掻いた。
『いや・・・その、さ、それ、バルクローレって港町でお花売ってるお嬢さんがさ、すっげえ可愛くて、おしとやかで、もうほんとに、可愛いのさ』
『は、はあ』
『それで・・・その・・・ああああもういいや!!と、とにかく!!それ失敗作だから!!』
エンデは手元のくしゃくしゃになった紙を見つめる。
『でもこれ・・・匂い付きの紙だもの。結構上等だわ。大事な気持ちが書いてあるんでしょう?』
ザゼリは顔を真っ赤にした。
『い、いいの!!やっぱ男はさ、こんなちまちま手紙書くよか当たって砕けるべきだと思うわけ!!だからそれはどうせ使わないの。というか、俺が持ってるとぜってえ捨てらんないからさ、捨てといてよ』
エンデはくすりと笑った。
『砕けないでね』
ザゼリは目を丸くすると、照れたように頬を掻く。
『ちょっと、後ろ向いていて』
『あ?』
『ちょっとだけ、お願い』
『は?ま、まあいいけど』
ザゼリは大人しく背を向けた。エンデはそっと、しゃがみこむ。眼下には、海の面が揺らめいている。エンデは深呼吸した。目を閉じて、キオのやっていたように、手をそっと、紙の端に当てる。意識を集中させる。
手のひらが、ちりちりと痛んだ。煙の匂いがしたような気がして、目を開ける。線香のように角の所が燃えて、墨になっていた。エンデはその部分を海の水に浸す。
立ちあがって、小さく嘆息した。
『もういいわ、ザゼリさん』
『お?おう』
ザゼリはきょとん、として振り返る。歳も背もエンデよりも大きい彼は、それでいて自分よりもずっと無邪気で可愛い子供のように思えた。
エンデは微笑した。いつから、こんなに、【当たり障りのない】笑顔ができるようになったのだろう。自然に笑えた。口の端の筋肉がひきつることもない。
『もしここに・・・キオ、って子とか、レミオ、って子が来たら・・・伝えておいて。待ってる、って。探しに来て、って。いつまでも、待ってる、って』
ザゼリはお日様のように笑った。
『おー。やっぱあいつらのダチか!伝えとく。あんたもまた遊びに来な、エンデ』
『少しは進展してるといいわね』
エンデが柔らかくほほ笑むと、ザゼリは一瞬きょとん、として、すぐに顔を音が出そうなほどに赤らめた。
『お、お、おおう・・・!!ま、まかしとけ!!』
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